Kindle作家九頭龍一鬼(くずりゅうかずき)の人生と意見

自著の紹介やそのほかいろいろをおとどけする予定です。

現代の人気作家を採点する~「現代版文壇諸家価値調査表」

 直木賞で有名なる直木三十五は、「文藝春秋」一九二四年一一月号にて、「文壇諸家価値調査表」なる企画を断行した。
 芥川龍之介泉鏡花川端康成谷崎潤一郎など、爾時の人気作家を、学殖(学力、知識)、天分(資質、才能)、修養(人格)、度胸、風采(容姿)、人気、資産、腕力、性慾、好きな異性、未来といった項目をもうけ、各百点満点で採点したのである。

 たとえば、芥川龍之介は、
学殖 96
天分 96
修養 98
度胸 62
風采 90
人気 80
未来 97

 亦、泉鏡花は、
学殖 38
天分 99
修養 65
度胸 10
風采 62
人気 70
未来 80
 とされている。

 読者には大好評だったが、一部の人間からは大変な顰蹙をかった。
 今東光などの著書で、存在は認識していたが、今回、書籍『文豪どうかしてる逸話集』のなかで現物を劉覧する機会があり、現在の読者にも興味がもてるとおもい、無名のアマチュア作家の悪巫山戯として、『現代版』を制作したいとおもった。と雖も、愚生は純文學中心に読書しているので、品隲した作家諸賢は基本的に純文學界隈限定である。

 採点項目は、

学殖(学力、知識)
天分(資質、才能)
修養(人格)
度胸
風采(容姿)
人気 
未来

 各百点満点(例外あり)とし、資産、腕力、性慾、好きな異性については、情報蒐集の方法がないうえに、いちじるしく主観に倚藉するので排斥した。亦、「文藝春秋」のような雑誌と相違し、紙幅に制限がないため、点数のみならず、幾許かの採点に関聯しては、個人的なコメントも添付させていただいた。

 所詮、無名の一アマチュア作家の児戯のようなものなので、直木三十五の場合のような影響力は皆無かとおもわれますが、各作家のファンを肇始として、炎上するようでしたら削除も考覈しております。たんなるアマチュア作家の戯言として御容赦ください。

     ◇

大江健三郎

学殖 98(ブレイクを劈頭とする世界文學の知識のほか、意想外に日本史全般にあかるい)
天分 98(ガルシア=マルケスは『落葉』が最高傑作だと看破したが、氏自身も初期が一番かがやいていた)
修養 100(息子さんの介護についての随筆にはいつも感動させられる)
度胸 99(「政治少年死す」を最新の全集で復活させたことはすごい)
風采 75
人気 89
未来 100(小谷野敦が、輓近の作品をもって夏目漱石を凌駕したというようにいっていたはず)


小谷野敦

学殖 99
天分 95(いや、評論のみならず、小説のほうも滅茶苦茶面白いです)
修養 50
度胸 50(禁煙ファシズムと闘っていたころは100だったが禁煙したらしいので半減)
風采 85(もてないと自虐しているが、けっして醜男ではない)
人気 65(小説家としてもっと評価されてもよいのでは)
未来 75(死後再評価される可能性がある)


島田雅彦

学殖 90
天分 91
修養 98(胡散臭い存在としか見做せない左翼という立場を固持している真面目さはすごい、とか右翼の福田和也に絶賛された)
度胸 90
風采 100(イケメンは往々にして歳をとらないらしい)
人気 85
未来 80


笙野頼子

学殖 85
天分 120(自他ともに藤枝静男の系譜と見做しているが、最早、完全に独自の文學世界を構築している)
修養 100(これこそ真のフェミニズム田嶋陽子程度をフェミニストと揶揄するものは笙野頼子にひれふせ)
度胸 100
風采 70(醜女であることを自虐しているが、福田和也のいうように被害妄想ではないか)
人気 77
未来 87


高橋源一郎

学殖 90
天分 100(文學というものを理論ではなく感性で構築できる、意外と数少ない天才。現代詩からの影響であるとよく指摘される)
修養 85(不道徳的なようにみえて、実際はだれよりも道徳的な作風をしている)
度胸 95(暢気気儘な風丰に似合わず、つねに過激な作品に挑戦している)
風采 90(イケメンではないが、もてる顔貌をしているとおもう)
人気 90
未来 98


筒井康隆

学殖 98
天分 100
修養 0
度胸 95
風采 87(醜男ゆゑに俳優になれなかったとよく発言しているが、そんなに醜男ではない)
人気 99(一部の読者から偏執的に厭悪されているので100ではない)
未来 98


中原昌也

学殖 75
天分 98
修養 100(混雑した店内で、老婆のために席を立つくらいの好青年だという。作風と真逆である)
度胸 98(芥川賞候補になることの許否をたずねる手紙に、「バカ」と書いて返信しようとしたという)
風采 78
人気 75
未来 85(日本文學では稀有なるアンチ・ロマンの作者として文学史に名前をのこすかもしれない)


西村賢太

学殖 85(一般的な教養全般については不明だが、古風な日本語の知識の豊饒さには瞠目せしめられる)
天分 80
修養 0
度胸 100
風采 75
人気 80(最近の芥川賞作家のなかでは可也健闘しているようだ)
未来 80


平野啓一郎

学殖 100(基督教異端神学から精神分析学まで他分野への造詣のふかさは異常である)
天分 80
修養 90
度胸 120(矢張りデビュー当時の毀誉褒貶は氏の度胸を証明している)
風采 70
人気 85
未来 90


保坂和志

学殖 95(現代思想を肇始として人文科學全般にあかるいが、這般の知識を自由自在にあつかう地頭のよさが目立つ)
天分 95(一読して独創的な文軆からして、才人といわざるをえない)
修養 95
度胸 80
風采 80
人気 80
未来 85


松浦寿輝

学殖 99
天分 98(圧倒的なインテリゲンチャながらも、文學者としての感性の豊饒さにこそ瞠目させられる)
修養 90
度胸 50
風采 76
人気 70
未来 88


舞城王太郎

学殖 90
天分 100(アヴァンギャルドな作風で人気だが、裏側に圧倒的なる文學理論の知識がかくれているのは明鬯である)
修養 ?(覆面作家なので、人格面はなぞである)
度胸 100(三島賞授賞式に出席せず、選考委員を憤怒させた)
風采 ?(覆面作家なので)
人気 85
未来 90


丸山健二

学殖 高学歴ではないが、自然科學、人文科學、現代美術などについて、さりげなく博覧強記なところをみせる
天分 よい意味でも悪い意味でも天才。ぶっとんでいて『トンデモ純文学』(中原昌也)ともいわれる
修養 よく女性差別者だと批判されるが、社会人時代に邂逅した奥さんを一途なほど大事にしているようだ
度胸 ありすぎて神をも懼れぬ(無神論者だが輪廻転生は信じているらしい)
風采 怖い(毎朝スキンヘッドにすると執筆に集中できるという)
人気 愚生をふくめ、一部の読者から熱狂的に崇拝されている
未来 ∞(おそらく死後永遠に忘却されるか、百年後に日本最高峰の文豪とされているはず)


村上春樹

学殖 78
天分 80
修養 90
度胸 98(批判されたら、其処を縮小させるのではなく、増幅させるのだといっていたはず。これが人気の秘訣か)
風采 85
人気 250
未来 100


村上龍

学殖 91(元来怜悧なほうではないのだろうが、一作一作の完成度向上のための勉強をまったく厭わない)
天分 85(「限りなく透明に近いブルー」をもって日本文學は終焉した、という評論を瞥見した記憶がある)
修養 50
度胸 85(不真面目なようにみえて生真面目である)
風采 80
人気 100
未来 95


綿矢りさ

学殖 56
天分 85(傑作もあることは否めないが、なかには担当出版社の倫理観を疑弐せざるをえないほどの失敗作もある)
修養 80
度胸 75
風采 100(中年になったが美人である)
人気 85
未来 79(紫式部清少納言樋口一葉、などと比肩できるだろうか)

     ◇

 採点を終えて――
 純文學系の人気小説家を採点するという企画だったが、執筆していて喫驚したのが、人気作家として臚列できるほどの作家が二十人程度しか存在しなかったことである。採点まえは、百人もいたら採点できるだろうか、などとおもっていたが、悪い意味で杞憂におわった。無論、辻仁成柳美里宮本輝石原慎太郎などの採点も考覈したが、如何せん、愚生はあまり熱心な読者ではないので、今回は諦念した。彼等を包裹しても三十人におよばないだろう。現代の純文學文壇が如何に狭隘かに気付かされる結果となった。個人的にカクヨムで活動していると、アマチュア作家にも天才的な逸材がおおくかくれていることがわかる。現代文壇がもっと刮目すれば純文學界を豊饒とできるほどの作家がさらに見付かるのではないか。未来の文學界の発展をいのります。