Kindle作家九頭龍一鬼(くずりゅうかずき)の人生と意見

自著の紹介やそのほかいろいろをおとどけする予定です。

人生で血となり肉となった百冊の文學たち(コメント付き)

 独断と偏見による傑作文學百冊。

 PC内で随時更新している個人的傑作文學の一覧表を引用しました。順位表ではなく傑作群を題名の五十音順で記述したものです。題名と著者名を引用するだけではおもしろくなく失礼ですので、一作ごとに簡単なコメントをつけます。小説、戯曲、詩歌、評論、箴言集あたりを中心に百作までしぼりました。基本的に一作家一作としましたが、誤謬があったらすみません。哲学書哲学史的にみれば、プラトンからデリダまですべて挙げなくては意味がないので、対象外としておきます。場合によっては、随時更新、追加してゆく可能性もあります。

――2020年1月2日
題名に括弧をつけて讀みやすくしたうえ、発表後に讀んだ作品のなかから、四作を追加いたしました。

――2020年3月25日
コメント文を改行して讀みやすくしたうえ、また、三作を追加しました。

   ◇

『あ・じゃ・ぱ・ん』(矢作俊彦
 実在の人物のあつかいがおもしろい。

阿部一族」(森鴎外
 日本語口語表現の極北。

『争いの樹の下で』(丸山健二
 圧倒的に感動的なアナーキズム文學。

「いづこへ」(坂口安吾
 無駄がない文章がうまいなあ。

伊豆の踊り子」(川端康成
 永遠の青春小説。

『一握の砂』(石川啄木
 共感。共感。

『異邦人』(カミュ
 エクリチュール云々よりも構成がすばらしい。

『院曲撒羅米』(オスカー・ワイルド著 日夏耿之介訳)
 原文よりむずかしい訳文。

浮雲』(二葉亭四迷
 文学史的価値だけでなく物語がおもしろい。

「和歌でない歌」(中島敦
 あこがれの歌集。

『嘔吐』(サルトル
 文軆実験がおもしろい。

奥の細道』(松尾芭蕉
 日本語が瀟洒ですね。

オデュッセイア』(ホメロス
 『ユリシーズ』を讀むためには必読。

風の歌を聴け』(村上春樹
 春樹文学は矢張りこれが一番。

『月山』(森敦)
 併載作品もおもしろい。

蟹工船』(小林多喜二
 泣ける。

『神狩り』(山田正紀
 エンターテインメントの極北。

『仮往生伝試文』(古井由吉
 文章がすごすぎるよね。

『季節の記憶』(保坂和志
 ここちよい退屈。

『99才まで生きたあかんぼう』(辻仁成
 異色の辻文學。

『虚構市立不条理中学校』(清水義範
 TVゲーム的おもしろさ。

虚人たち』(筒井康隆
 筒井文學はこれが最高峰かな。

金閣寺』(三島由紀夫
 森鴎外の文軆で書かれた長篇としてすごい。

『銀河ヒッチハイクガイド』(ダグラス・アダムズ)
 鬱病のロボットがわらえる。

「クチュクチュバーン」(吉村萬壱
 カフカを凌駕する不条理文學。

「外科室」(泉鏡花
 窮極の戀愛小説。

『コインロッカーベイビーズ』(村上龍
 最早エンターテインメント的おもしろさ。    

五重塔』(幸田露伴
 文章も物語もいい。

小僧の神様」(志賀直哉
 文章よりも物語がいい。

金色夜叉』(尾崎紅葉
 物語よりも文章がいい。

『最後にして最初のアイドル』(草野原々)
 『エヴォリューションがーるず』も泣けてよい。

『三頭火句集』(種田山頭火
 俳句はわからないが山頭火はわかる。

「地獄とは神の不在なり」(テッド・チャン
 SF短篇の到達点です。

死線を越えて』三部作(賀川豊彦
 ノーベル文學賞候補作。

「囚人」(倉橋由美子
 グロテスクさの描写がすばらしい。

『宿命の交わる城』(イタロ・カルヴィーノ
 リーダビリティのたかさがすごい。

侏儒の言葉』(芥川龍之介
 日本版『箴言集』ですね。

十角館の殺人』(綾辻行人
 叙述トリックを人口に膾炙させたのはすごい。

春琴抄』(谷崎潤一郎
 谷崎は苦手だがこれには圧倒された。

『〔少女庭国〕』(矢部嵩
 これを讀まずして現代文學は語れないほど斬新。

「小説伝」(小林恭二
 これほど完璧な中篇をほかに識らない。

ジョン・レノン対火星人』(高橋源一郎
 高橋文學の原点にして最高傑作。

『城』(カフカ
 『金閣寺』もそうだが城の象徴性がおもしろい。

箴言集』(ラ・ロシュフコー
 人間のすべてが書かれている。

真・女神転生 ファイナル・ストーリー』(井上尚美)
 小説を讀むきっかけになった。

好き好き大好き超愛してる。」(舞城王太郎
 ポストモダン文學の傑作。

青春デンデケデケデケ』(芦原すなお
 せつねえ。

『生誕の災厄』(エミール・シオラン
 鬱病患者のための聖書。

世界の中心で愛を叫んだけもの」(ハーラン・エリスン
 暴力性より設定がおもしろい。

『世界の果ての庭 ショート・ストーリーズ』(西崎憲
 現代日本文學はこんなにすごいぞ。

接続された女」(ティプトリーJr.)
 これがなければ『マトリックス』もなかったわけで。

戦争と平和』(トルストイ
 セックス以外のすべてがえがかれた巨篇。

「善人はなかなかいない」(フラナリー・オコナー
 超弩級鬱病小説。

曽根崎心中」(近松門左衛門
 日本のシェイクスピア

ダ・ヴィンチの手記』(レオナルド・ダ・ヴィンチ
 箴言がおもしろい。

「地球最大の決戦 終末怪獣エビラビラ登場」(田中啓文
 ギャグ以前に物語が壮大すぎる。

「チリの地震」(クライスト)
 世界一美しい『出だし』で有名。

ツァラトゥストラはこう言った』(ニーチェ
 これは小説として挙げておきます。

罪と罰』(ドストエフスキー
 ドストエフスキー先生にしてはつかみがはやい。

ディアスポラ』(グレッグ・イーガン
 世界一難解なSFといわれたが新作はもっとすごい。

「畑紳有楽」(藤枝静男
 笙野頼子のファンなら讀むべし。

「童貞放浪記」(小谷野敦
 ラストがすばらしい。

『努力しないで作家になる方法』(鯨統一郎
 作家志望者は泣けるから讀むべし。

にごりえ」(樋口一葉
 文章がすばらしいです。

日蝕』(平野啓一郎
 文軆はむしろどうでもよく物語がよくできている。

日本近代文学の起源』(柄谷行人
 人類文明の起源とでもいうべき超傑作評論。

『日本語のカタログ』(谷川俊太郎
 絶版になっていて傑作集で一部しか讀めない。    

『猫の客』(平出隆
 一冊まるごと『主人公の一人称が出てこない』名文。

「脳病院へまゐります」(若合春侑
 懐古趣味の文軆としては『日蝕』よりもうまい。

『野火』(大岡昇平
 大岡昇平を讀まずしていずくんぞ戦争を語らんや。

『蠅の王』(ゴールディング
 ノーベル賞受賞作だけど超弩級のエンタメ。

『白鯨』(メルヴィル
 池澤夏樹の指摘のとおり情報のデータベース化が斬新すぎる。

『ハザール事典』(パヴィチ)
 通読できたわけではないがどの物語もはずれがない。

『果しなき流れの果に』(小松左京
 これほど複雑なSFはほかにない。

「バベルの図書館」(ボルヘス
 まあ人間の知性の特異点です。

『美徳の不幸』(マルキ・ド・サド
 『悪徳の栄え』がながすぎて讀めていないので此方を。

「ひとつの装置」(星新一
 星新一文學の個人的ベストはほかに「おーい、でてこーい」「午後の恐竜」「時の渦」「処刑」。

百億の昼と千億の夜』(光瀬龍
 日本のSFはこんなにかっこいいぜ。

百年の孤独』(ガルシア=マルケス
 結末に衝撃をうけて影響をうけまくった。

ファウスト』(ゲーテ
 独逸語の修辞法をすべて網羅しているらしい。

『文体練習』(レーモン・クノー
 ロラン・バルトを讀むならこれも讀まないといけない。

『ブンとフン』(井上ひさし
 単純におはなしとして面白い。

『文明の子』(太田光
 タレント本の最高峰ではないか。

方丈記』(鴨長明
 よくいわれるけれど文章の質がたかすぎる。

抱擁家族』(小島信夫
 まだまともな日本語を書いていたころの小島文學。

僕の妹は漢字が読める』全五巻(かじいたかし
 全五巻でこれほど破綻のないドラマツルギーが圧巻。

「町でいちばんの美女」(ブコウスキー
 いいはなし。

「岬」(中上健次
 『枯木灘』が苦手なので此方を。

『密会』(安部公房
 安部文學はこれが一番でしょう。

『冥途』(内田百閒)
 ここちよい悪夢。

『メイド イン ジャパン』(黒田晶
 クライマックスの残酷描写がすばらしすぎる。    

『迷路のなかで』(ロブ=グリエ
 エンタメ並におもしろいアンチ・ノベル。

『芽むしり仔撃ち』(大江健三郎
 『万延元年のフットボール』が讀めるかたならば『万延~』が一番だろうか。

もののあはれ」(ケン・リュウ
 日本人全員必読感涙必至の中国産日本SF。

ユリシーズ』(ジェイムズ・ジョイス
 文章の可能性がすべてつまっている窮極の文藝巨篇。

ルバイヤート』(ウマル・ハイヤーム)
 鬱病患者のための詩集。

『零歳の詩人』(楠見朋彦)
 なぜか無視されている戦争文學の傑作。

老人と海』(ヘミングウェイ
 エンタメといわれても本作の完成度はすごい。

ロミオとジュリエット』(シェイクスピア
 物語構成が完璧。

『倫敦巴里』(和田誠
 絶版だが日本語版文体練習の傑作。

――追加四作2020年1月2日

『ア・ルース・ボーイ』(佐伯一麦
 神話的構造さえもった、私小説の傑作。仕事と愛――これほど真摯に生きる不良少年像はほかにない。

『成功学キャラ教授 4000万円トクする話』(清涼院流水
 自己啓発書マニアの清涼院氏が『四千万円分の自己啓発書の内容を凝縮した』という、自己啓発書の決定版。成功うんぬんだけでなく、日常の人間関係にもヒントがいっぱい。

『卒業』(重松清
 中篇四篇が収録されているが、「あおげば尊し」が絶品。中篇という形式のなかで、かんがえうるかぎりの複雑さで主題をほりさげる。

『藻屑蟹』(赤松利市)
 金と欲という主題にこれほど肉薄した小説は讀んだことがない。金と欲を追窮した最涯てにあばかれる人間の本質。

――追加 2020年3月25日

少年アリス』(長野まゆみ
 十代爾時に購読したのだが、三十代になって再読すると、その文章、場面、ドラマツルギーの繊細さに圧倒される。このころの長野は正仮名と新仮名を攪拌させた独自の統辞論を標榜していたが、この未熟さが少年たちの冒険にぴったりで素敵である。現在は新仮名文軆になったようで残念だ。

『ロリータ』(ナボコフ
 フローベールプルーストジョイスの文軆を攪拌させて独自性をもたせたような名文中の名文。あらゆる修辞法を網羅した複雑で蠱惑的な文軆は現代文學の到達点として銘記されるべきだろう。後半で、失踪したロリータの現状と過去が爬羅剔抉されるとともに、ハンバートとの戀愛こそが純愛だったと披瀝される。まがうかたなき純愛文學の傑作である。

『聖アントワヌの誘惑』(フローベール
 天才フローベールをして完成に三十年の歳月を閲せしめた傑作。『神曲』や『失楽園』に匹敵する基督教文學ではないか(元来は反基督教的終焉をむかえる予定だったことは有名だが)。基督教と異教の対峙が偏執病的情報の大伽藍のなかでえがかれる。圧巻。