Kindle作家九頭龍一鬼(くずりゅうかずき)の人生と意見

自著の紹介やそのほかいろいろをおとどけする予定です。

九頭龍一鬼(誰)の死亡記事

 作家を中心として、存命中の有名人たちが、自分の最期を想像してえがいた随筆集『私の死亡記事』(文春文庫)が絶版で讀めないので(Kindle化をおねがいしていますが)自分で勝手に自分の死亡記事を書いてあそんでみました。

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『九頭龍一鬼氏死去』
 昨日、肺癌で入院していた小説家・ミュージシャンの九頭龍一鬼氏(62歳)が近隣の公園にて縊死体として発見された。病院を脱走して自殺したとおもわれる。九頭龍氏はながい下積み時代を閲して小説家としてデビュー。純文学と大衆文学を股にかけて多彩なる文學活動を展開し、おおくのミリオンセラー、ダブルミリオンセラー、トリプルミリオンセラーを連発した。書けば売れるといわれた九頭龍氏は生前『金儲けのためならなんでも書く』と豪語していたがその理由は『戦争で傷付いたひとたちをひとりでもすくいたいからなんです。厳密にいえば国境なき医師団に寄附したいんです』とのことだった。
『神秘合一で全知全能となったヒトラーと人類との百年にわたる架空の第二次世界大戦』をえがき、ライフ・ワークとなるだろうと標榜していたSF巨篇『聖戦物語』は未完のまま第三巻が発行される予定。『「豊饒の海」を書いて自決した三島由紀夫にさあおれはこういいたいんだよ。死ぬひまがあったらもっと小説を書けってね』と生前獅子吼していた九頭龍氏はまた『「聖戦物語」はおれにとっての「豊饒の海」だ。埴谷雄高の「死靈」のように未完で終わらせたくない』とかたっていたが、これが遺作となった。
 十代よりミュージシャンに憧憬していた九頭龍氏は作家業のかたわらシンガーソングライターとしてもデビューし、作詞作曲編曲歌唱を兼任し、メガヒットを連発。カバーアルバム『盗作』は三千万ダウンロードのヒット、ベスト盤『傑作』は八千万ダウンロードを超える記録的ヒットとなった。
 60歳で文學活動と作詞活動が評価されノーベル文學賞を受賞。ノーベル財団による受賞理由は『反ドジッター空間共鳴場理論対応におけるホログラフィック原理によっておりたたまれた二次元宇宙のなかの量子論的相補性の渦のなかで素粒子たちの波動関数が聚斂したひとつのブラ・ベクトルとしてえらばれた』であった。あまりにも破家げた九頭龍文學を讀むうちに選考委員たちが乱心した結果との推測が有力である。某文藝記者によると、元来オーストラリアの覆面作家グレッグ・イーガンの受賞が決まったが、イーガンの正体が異世界人だということが判明し、急遽、九頭龍氏への授賞に変更されたという巷説もある。
 十代からのヘビースモーカーだった九頭龍氏は肺癌(ちなみに煙草が原因とされる肺門型ではなく喫煙と無関係とされる肺野型であった)に罹患しても煙草を喫いつづけ、屍体発見現場には一本だけのこった『わかば』のケースがおちていたという。九頭龍氏は曩時の政府による『全国禁煙法案』に反対するデモにくわわり、国会議事堂まえにて、からだじゅうにTNTダイナマイトをまきつけたまま『メビウス』を喫うというパフォーマンスをして逮捕された経験もある。
 なお、遺体発見現場には遺書らしきA4用紙がのこされていたが、野良猫に荒らされた形跡があり、『技術的特異点が到来したら愚生は生き――』までしか判読できないという。